東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)227号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
1 取消事由(一)について
成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例記載の考案は風呂蓋の改良に関するものであつて、引用例の実用新案登録請求の範囲には、「断熱材の表面に木質合板を有した芯材の全面が軟質合成樹脂シートによつて被覆されると共に、該軟質合成樹脂シートがシールされる芯材の縁側面にシール突出部が形成され、更にコの字状軟質合成樹脂バンドの内側面が前記シール突部に接し、且コの字状軟質合成樹脂バンドと前記軟質合成樹脂シートとの間に空間を形成することを特徴とする風呂蓋」(別紙(二)参照)と記載されていることが認められる。
ところで、成立に争いのない甲第二号証の一・二によれば、本願発明は、「蓋板に関するもので、従来よりも強度が向上し、安価で肌ざわりがよく且つ耐水性、耐久性に富む、例えば浴槽用等各種用途の蓋板を提供することを目的とするものである。」(明細書第一頁第一二行ないし第一五行)ことが認められるが、弁論の全趣旨によれば、長尺鋼板、長尺線材のように、いわゆる長尺もので、巻取り巻収可能なものを合成樹脂で被覆する際に、その長手方向に沿う全周囲に対し合成樹脂の外皮を押出成形により一体的に被覆形成する技術は、本願発明の特許出願当時周知であつたことが認められ、また、引用例には、風呂蓋に関し、前記内容の技術が開示されているのであるから、本願発明において、木材、合板、プラスチツク、紙、軽合金等の板材等よりなる芯板(明細書第三頁第一一、第一二行)を合成樹脂の外皮で被覆する際に、右周知技術を応用する程度のことは、当業者にとつて格別の創意工夫を要するものとは認め難い。
原告は、本願発明にかかる蓋板に用いられる芯板は長さが一ないし二メートルの平板で、かつ剛性を有するものであるとして、本願発明に前記周知技術を応用することは容易に想到しうる程度のものではない旨主張するが、芯板の長さ(ただし、本願の明細書には、芯板の長さの限定についての記載はない。)や芯板が平板で、剛性を有することの故に、本願発明に前記周知技術を応用することが困難であるとは認められず、原告の右主張は採用できない。
よつて、原告の取消事由(一)の主張は理由がない。
2 取消事由(二)について
前掲甲第二号証の一・二によれば、本願発明においては、「合成樹脂又はゴムの外皮を芯板の長手方向に沿つて全周に一体的に被覆形成するので、外皮がはがれたりすることなく、(中略)、且つ一体的であるが故に剛性、たわみ強度及び耐衝撃強度が著しく向上する。」(明細書第四頁第一五行ないし第五頁第一行)という作用効果を奏するものであることが認められる。
また、合成樹脂又はゴムの外皮が芯板の長手方向に沿つて全周に一体的に被覆形成されているので、合成樹脂又はゴムの外皮と芯材との間に空気が内在する余地はなく、右外皮の滑りも生じないものであるから、熱変形は小さく、かつ空気の熱膨脹により外皮が破損したりするようなことは生じないものと認められる(これらの作用効果のうち外皮の破損がないことは、本願の明細書に「外皮がはがれたりすることなく」((明細書第四頁第一七、一八行))との表現で記載されており、その余の点は、合成樹脂又はゴムの外皮を芯板の長手方向に沿つて全周に一体的に被覆形成するという構成によつてもたらされる内在的な作用効果として、明細書の記載内容から当然に導き出されうるものと認められる。したがつて、これらの作用効果が明細書に記載されていないから、原告が本訴でこれを主張することはできないとする被告の主張は、採用することができない。)。
したがつて、本願発明は、取消事由(二)、(1)、イないしハ掲記の作用効果を奏するものということができるが、これらの作用効果はいずれも、芯板の被覆形成手段として、合成樹脂の外皮を押出成形により全周囲に一体的に被覆形成する前記周知技術を採用することによつて、当業者であれば、当然に予測することができる程度のものであり、これをもつて格別のものということはできない。
また、本願発明においては、芯板の両端面に端辺被覆が付加されており、そのために蓋板の両端面が保護されている(取消事由(二)、(2)掲記の作用効果)が、右作用効果は、右構成に伴う必然的なものにすぎず、これを格別のものと認めることはできない。
さらに、前掲甲第二号証の一・二によれば、本願の明細書には、「大量生産により蓋板1を製造するには、芯板3にあらかじめ端辺被覆5を付加しておき、その後芯板3の長さ方向に沿う全周に押出成形によつて外皮4を一体的に被覆形成するようにすればよい。」(明細書第二頁第一三行ないし第一七行)、「芯板の長手方向の端面に端辺被覆を施してから押出成形により合成樹脂又はゴムの外皮を被覆形成するようにすれば、大量生産に適しているのでコストを下げることが可能となり安価な蓋板を大量に提供することができる。」(同第四頁第二行ないし第六行)との記載があることが認められ、右記載の製造手段を採用する場合には、原告主張(取消事由(二)、(3))のとおり、大量生産することが可能で、安価な蓋板を提供することができるものと認められるが、本願発明は、前示本願発明の要旨にみられるとおり、右製造方法に限定された発明ではないから、右効果は、本願発明における特有の効果であるとは認められない。
右のとおり、原告が主張する本願発明の作用効果はいずれも格別のものであるとは認められず、原告の取消事由(二)の主張も理由がない。
以上の次第で、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決には、これを取り消すべき違法の点は存しないものというべきである。
三 よつて、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は、これを失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
芯板の長手方向に沿う全周に合成樹脂又はゴムの外皮を押出成形により一体的に被覆形成するとともに、芯板の両端面にも合成樹脂又はゴム材又は金属材よりなる端辺被覆を付加して芯板の外周面全体を被覆形成してあることを特徴とする蓋板。